伊勢丹新宿店本館ウインドウディスプレイ”POWER OF FASHION”を終えて

2020.7/29~9/22迄ディスプレイデザインを担当しました伊勢丹新宿店本館”POWER OF FASHION”を振り返ってみたいと思います。

堀口さんからの電話

コロナ禍における緊急事態宣言が解除されて少し経った頃、伊勢丹の堀口さんから連絡をいただきました。
堀口さんはちょうど4年前のエキシビション“music colors”以来、公私ともに大変お世話になってる方です。

伊勢丹新宿店のウインドウディスプレイを全面お願いしたいというお話でした。
いつも伊勢丹のウインドウディスプレイを見ては、いつかやってみたいなと思ってた自分にとってはこれ以上ないくらい嬉しい依頼でした。

堀口さんの第一声はこうでした。
「伊勢丹の前を通った人達に元気とか希望を与えられるウインドウにすべきだと思ったんです」
堀口さんは僕の中で常に熱く、まっすぐな人という印象でとても堀口さんらしい言葉だと思いました。
コロナ禍で沈んだ新宿の街を明るくしたいという真っすぐな気持ちにじーんときました。

シャッターの降りた伊勢丹新宿店

そして緊急事態宣言下シャッターの降りた写真を見せていただき、”この光景を見たとき、本当に寂しい気持ちになったんですよ”という言葉がとても印象に残りました。

早速、現場を堀口さんと見て回り、絶対にすごいものにしようと強い意気込みとは裏腹にディスプレイデザイン経験が今回はじめての自分が果たしてこんな大きい規模のものが出来るのだろうかという少しの不安もありました。
しかし絶対にやり遂げてやるぞという気持ちが強くなっていきました。

これは持論ですが、何か少しでも不安要素があると自信のなさに繋がり、モノづくりにも影響してきます。それらを解消するにはとにかく徹底的に準備することこれに尽きます。とにかく徹底的にディスプレイの事を考えることにしました。

数日後、伊勢丹プロジェクトチームの清水さん、堀口さん、3者でイメージのすり合わせを行いました。清水さんもとても熱い方で、色々と話してるうちに本当に素晴らしいチームになると確信しました。
与えられたテーマは”POWER OF FASHION”―ファッションの力で行き交う人に元気を与える。

緊急事態宣言中シャッターの降りた伊勢丹新宿店(堀口さん撮影)

プレゼンテーションに向けて

アイデアを出す段階でまずひたすらに花を描きまくりました。この段階では花を使うということは考えてはなく描きながら着想を広げていこうと思いました。

大量に描いた花のスケッチ

そして一週間後、プロジェクトチームの石光さん、西村さんも交え顔合わせとプレゼンテーションを行いました。石光さん、西村さん共にとても気さくで柔軟な方で、どんな質問にも快く答えてくださいました。ここで聞いた照明の話などは後に大変役立つことになります。

デザイン案の方向性は2案提出しました。

A案/暗やみから光が差し込み、色が現れる。それらが混ざり合い、中央のウインドウに集約する。調和と融合の世界でwithコロナをあらわしつつ、インクのしぶきなどで塗り替え新しい世界を創造する

B案/漆黒の宇宙から地球→日本→新宿 イメージで言うとチャールズ&レイイームズPOWERS OF TENのように視点がかわっていくように色彩が変化していき中央のウインドウで地球と共に共存する

両案ともとてもいい評価をいただきましたがA案の”塗り替える”というコンセプトを膨らませていこうということになりA案に決定しました。
この時点でA案のラフデザインには、花のシルエットは含まれていませんでしたが”色”を受けて動き出す生命体の象徴として、とっかかりに描いた花のスケッチをシルエットで加えることにしました。

ちなみにB案のラフデザインは下記のような感じです。

B案のラフデザイン

実際に掲出したコンセプトシート

まずこれまで数多くの伊勢丹ディスプレイのデザインを担当されてるmadoの田丸さんと板谷さんの事務所にお伺いし問題点や注意点などを色々と教わりました。こちらの細かい質問にもすごく親切かつ丁寧に教えてくださり、実際に先回りしてサンプルを作成して見せてくださったりmadoのお二人のおかげで、ひとつひとつの不安要素がみるみる解消されていきました。

第一部に向けて

数回のミーティングを重ねていくうちに、会期を第一部と第二部にわけ、まずは第一部で”調和と融合”を表現。第二部で”時代を塗り替え新しい世界を創造していく”と会期を分ける事に決定しました。

さらに”音楽も連動させ、ARのエフェクトをウインドウに組み込むのはどうか”という堀口さんの発案で、音楽の監修を小泉さん(roph recordings)そしてARを柏原さん(HACK IT inc.)にお願いすることになりました。
小泉さんは元々nujabesのマネージャーの頃からさかのぼると随分と古い付き合いで、尊敬できる友人でもあります。4年前の伊勢丹新宿店での展示”music colors”を企画、ディレクションしていただき、また歳月を経てこのウインドウでご一緒出来るのは本当に嬉しいことです。
AR担当の柏原さんも、とてもユニークかつ柔軟な方で初回の打ち合わせの際に色々と提案いただきました。また過去の事例も見せていただき堀口さんと顔を見合わせ驚きの声をあげました。
もうこの時点では当初の不安要素は消え、ワクワクした気持ちで前に進むことになりました。

音楽は小泉さんの監修で haruka nakamuraさんとLinn Moriさんがコラボレーションで楽曲を制作していただくと聞き、本当に嬉しかったです。また物凄いスピード感で素晴らしい作品を制作してくださいました。

今回のウインドウについてharuka nakamuraさん、Linn Moriさんからいただいたコメントです。


 
戦争の反対は平和ではなく芸術だと誰かが言っていた。
人は、困難な時にこそ、その姿勢を求められる。
もはや祈るしかない、のではなく、祈りから始まることがある。
音楽は祈りに似ている。
の中でしか見えないものがある。
この東京にも、一条の光を。
 
haruka nakamura
 

 
先の見えない日々で暗いムードが漂っています。
しかし、この状況は必ず終わります。
 
こんな時こそ、ファッションや芸術に出来ることがあるはずです。
 
人生は長いマラソンです。
急がず焦らず進みましょう。
 
コロナを克服した世界が訪れることを願っています。
 
Linn Mori
 

続く制作の日々と施工業者の方々とのやり取り。色校正も一発目からほぼバッチリなものが上がってきました。

シートの色校正

そして迎えた7/28の施工当日。今回のウインドウには三つの施工業者が入ってるのですがプロの仕事にとにかく感動しました。すごいスピードで的確にウインドウが仕上がっていく。。商品やマネキンの角度によって全然見え方が異なることをスタイリスト信太さんの仕事を目の当たりにして見ることが出来、ライティングで印刷では表現できない色が出たり(黄緑が蛍光黄緑のような色になる)想像を超える仕上がりになりました。

この日の模様は【新宿店ウィンドウ施工ストーリー】POWER OF FASHION 〜伊勢丹新宿店のウィンドウの力で前を向く〜でアップされています。

ARも柏原さんの試行錯誤の末ばっちり動作し、無事第一部を迎えることが出来ました。

丁度この時期伊勢丹の堀口さんと対談をしました。こちらの対談でも今回のウインドウディスプレイの事を話してますのでぜひご一読いただければ幸いです。

〇 POWER OF FASHION 〜伊勢丹新宿店のウィンドウの力で前を向く〜
株式会社三越伊勢丹  堀口佳祐 氏との対談
https://www.mistore.jp/shopping/feature/shops_f2/st_window_01_sp.html

↓第一部のウインドウ完成写真

ストーリーにあげてくださったりメッセージをくださった方、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
皆様からメンション付きでアップいただいた投稿はInstagramのストーリーズアーカイブにアップしていますので是非ご覧いただければ幸いです。

そして一部開催と並行して第二部の準備に取り掛かっていきます。

第二部に向けて

第二部の方向性は一部の本制作中には、ほぼ見えていました。
インクのしぶきを当初は、ウインドウ内を造作物で埋め尽くし上から吊るという方法を考えていましたが、チームそしてmadoのお二人からアドバイスをいただき、ウインドウ前面に高透過透明フィルムでグラフィックをプリントし、その奥に造作物を吊るというレイヤーで見せていく方法になりました。実際この方が奥行きが出てより厚みのある表現になりました。

第二部のラフデザイン案

高透過透明フィルムは一番目につく箇所なので、原寸で見てもディティールが甘くならないようとにかく細かく作業していきました。

透明シートの色校正

そして造作物のペイント作業です。材質は塩ビボードで比較的重量の軽いものですが、すこし重厚な感じに見せたくて木のような質感に近づけるようひたすら色を塗り重ねていきました。黒→茶→白と下地を重ねその上からペイントしました。すべての作業を屋外で行い、土をこすりつけたり雨ざらしにしたり色々な方法を試しました。

完成した造作物

9/1施工当日、ベストを尽くしたものの実際のウインドウでどう見えるかという不安がありましたが高透過透明シートが一枚貼られた時点で、これは一部のクオリティをはるかに超えるなと確信しました。

↓第二部施工風景

↓第二部のウインドウ完成写真

第二部はAR ART EFFECTも楽曲、演出ともに変化を加えています。

第二部も多くの反響がありました。”元気をもらえた” “気持ちがパッと明るくなった”などメッセージをいただき本当に嬉しかったです。
そして第一部に引き続き、見に行っていただいた方々本当にありがとうございました。また遠方からも”見に行けないけど応援してます”というようなメッセージも本当に多くいただき感謝しております。

会期中、スマホをウインドウにかざしてる時にあることを思いつきました。このウインドウを写真家の小見山峻さん だとどういう視点で撮ってくれるだろうか? すぐ小見山さんに電話しお願いしました。小見山さんは快く引き受けてくださり撮影していただきました。
自分の想像をはるかに超えたものがあがり感嘆しました。

小見山峻さんの写真

素晴らしい写真の数々から10枚選ばせていただきましたので、この写真はまた後日アップしたいと思います。

そして堀口さん、小泉さん、柏原さんから今回のウインドウを終えてコメントをいただきました。


緊急事態宣言下で、銀座の和光はウィンドウに「We are preparing for a better tomorrow.」というメッセージを掲げた。
銀座三越で働く先輩からその写真を送られてきた時、正直嫉妬したし、ものすごい焦りを覚えた。
伊勢丹新宿店はシャッターを閉めたまま。
このままでいいのだろうか、自分たちにできることはないのか。
営業再開後、7月後半からのウィンドウプランがまだ埋まっていないという話を聞いて、真っ先に手を挙げた。
もうやることが見えていたから。
「藤田さんにお願いしよう。藤田さんに、自分たちが発信したい”Power”を表現してもらおう。」

2016年2月、伊勢丹新宿店本館3階で開催した藤田さんのエキシビジョン『Music Colors』が終わった瞬間、いつか藤田さんに、伊勢丹の壁いっぱいに描いてもらいたい、なんて勝手に思い、それが自分にとっての目標になっていた。勝手に。

そして2020年7月29日に日付が変わった頃、壁いっぱいではないけれど、ウィンドウいっぱいに藤田さんのアートワークが出現した。
新宿三丁目交差点の向い、JTBから伊勢丹新宿店を眺めてみる。
少し離れていても十分に伝わる力強い色彩。
コロナは色々な大切なものを奪っていったけど、
希望は奪えない。前を向く力までは奪えない。
藤田さんにお願いをして、本当に良かった。心からそう思った。

藤田さん、タイトなスケジュールにも関わらず、
迷いなくオファーを受けてくださり、本当にありがとうございました。

そして音楽の面でサポートしてくださった小泉さん。
素晴らしい音楽を作ってくださったharuka nakamuraさん、Linn Moriさん。
AR導入にあたり、柔軟に対応してくださった柏原さん。
藤田さんの強烈な引力(人間力)に様々な方が集まり、この『POWER OF FASHION』が完成しました。
そこに関われたことは、自分にとって大きな財産です。
改めて、ありがとうございました!!

最後に、絶対にいいものになると確信して手を挙げたあの時の自分にも、「よくやった」と褒めてあげたいです。
さて、次の目標は何にしようか。。

株式会社 三越伊勢丹 堀口佳祐


今回、藤田さんからウィンドウの件で連絡をいただいたときは、ちょうどコロナ関連で色々なことが中止、延期続きで重い空気の真っ只中。
伊勢丹新宿店 本館3階で行われた藤田さんのexhibition「music colors」の時からいつかはウィンドウをと語り合っていたことが、まさかこのタイミングで現実のこととなるとは!
「POWER OF FASHION」という希望に満ちたテーマで藤田さんのデザインがあの通りを彩る様子を想像し、本当に胸が高鳴りました。

さらに今回は柏原さんによるAR演出に使用する音楽ディレクションを担当させていただき、haruka nakamura、Linn Moriの協力のもと、藤田さんの世界観をよりダイナミックに表現するお手伝いができて大変光栄でした。

公開前日の深夜にまで及んだ設営では、一つ、また一つとウィンドウが完成していく様子はまさに職人技の集結。それはそれは圧巻でした。
道を挟んで少し離れた場所からライトアップされたウィンドウを眺めていたら、藤田さんや堀口さんと取り組んできたこれまでのことが色々と思い起こされ、感慨深い気持ちとともに、もっと色んなことをやっていきたい!という新たなエネルギーが生まれるのを感じました。

色々と不安の多い状況だからこそ、自分たちができること。今こそ音楽やアート、ファッションのパワーが必要なのだと再確認する良い機会をいただけたこと、心より感謝しています。

roph recordings/rockwell product shop
小泉巧


 
2020年4月1日創業からわずか1週間でコロナによる緊急事態宣言。
イベントでの展開を軸にしたARクリエイターとしての第一歩目でいきなりつまずいたわけですが、
無我夢中でコンテンツを作ることを止めることはしませんでした。
 
自分がやっていることが正解なのかどうかもわからないまま2ヶ月近く経ち、緊急事態宣言明けに堀口さんから一本のお電話。
まさかの第一回目の仕事が伊勢丹新宿店のウインドウの仕事。
 
正直にいうと一番最初はほっとしたことと、なんとか形にする!ということで必死でした。
 
その後、堀口さんと藤田さんとミーティングをさせていただき、そこで藤田さんとは初めてお会いしました。
イメージを共有いただいた際に、手法に関してはピンっとくるものがあり、この方法しかないという方法をご提案してみたところ
その方法で即決定!
自粛中に作ったコンテンツを見せた際に、驚いていただく藤田さんの反応をみて、
自分の仕事は正解だったと実感したことを今でも覚えています!!
 
そこから現場までは軽いステップを踏むくらいの軽快な流れであまり記憶にないほどですw。
それくらい携わるメンバーの全ての理解が早く感じました。
 
今考えると、緊急事態宣言後のみんなのベクトルが同じ方向だったのかもしれません。
 
「表現したくてたまらないっっっ!」
 
そういった印象でした。
 
今回、堀口さんからご連絡をいただき、藤田さんや小泉さんと出会い、
ARの仕事として華々しいスタートを切れて、とても光栄です!
 
国際装飾で、16年間伊勢丹新宿店のディスプレイ施工に関わらせていただいてますが、今回のものは特別強く印象に残りました!
 
今はまたこのメンバーでなにか
 
「表現したくてたまらないっっっ!」
 
という気持ちでいっぱいですw
 
本当にありがとうございました!
 
 
株式会社HACK IT 
柏原悠佑

おわりに

9/22最終日 車から見たウインドウ

“新宿の街を元気にしたい”という堀口さんの気持ちにみんなが一丸となり取り組んだウインドウ。各方面のプロフェッショナルが集まると物凄いことが出来るんだとあらためて実感したと共に、この仕事をしてきて本当に良かったと心から思いました。
これからも自分が関わっていく仕事が、勇気や希望、元気を与えれるものになればこんなに素晴らしいことはございません。
最後まで読んでいただきありがとうございます。そして本当にありがとうございました。